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先輩メッセージ / Message18:自由人 高橋歩さん

今やどの本屋に行っても、高橋歩コーナーがありますよね。

本屋行って、一店ずつ口説いているのもあるし。VILLAGE VANGUARD(ヴィレッジバンガード)なんかは、POPとか作ってくれているけど、あの店はチェーンでも本部発注はないからさ。各店の店長の意思で作ってくれているんだよね。たまに、表紙見えねぇよってくらい積んである。

でも今はNYにもオフィスを置いて出版をやっているわけ。まだ2冊しか出してないけど、全然売れてない。しかも名前がワンピースブックス。俺、今「ルフィ」だから(笑)。七つの海を俺達も渡るべって言っているところ。日本では「歩さん~」とかおだてられて、ダメな状況だからさ。たまにマゾって言われるんだけどね。

それにオレの本は、日本のためにやっているというのとはちょっと違う。日本人のために書いているわけじゃなくて、俺はこう思うって言って書いているわけだから。どこの国の人が読んでもいいわけ。韓国は何も宣伝しなくても、いきなりめちゃ売れしていて。でもNYは全然よ。そろそろ仲間はびびっているよ。「全米は甘くねぇ」とか言ってさ。でも俺と出版流通のリーダーは絵が見えているからね。大丈夫、大丈夫、同じ失敗を繰り返さなかったら、いつもどおり行くよって。あと数年待てば、全米ベストセラーにもなるんじゃない?

そして本がベストセラーになった後、26歳で再び無職になっていますが。これはなぜですか?

だんだん「若者のカリスマ」みたいな扱いになってきたからさ。本を出したときは自伝を出してヒーローになりたいって思ったし、そうなるように頑張ったよ。でも俺は全然世のため人のためとは思ってないよ。ただ自伝出して、ヒーローになったら、かっこよくね?みたいな。絶対野口英世より俺のほうが熱いぜ、みたいな。いや、会ったことないから、知らないけどね。

ただそんな感じで始まって、いろんな人がいいねって言ってくれて、結果人のためにもなったけど、俺は自分がカッコイイと思ったからやった。でもお金も入ってきてさ。俺の鼻も伸びてきて、喋り方もちょっと矢沢になってきてさ。もうそろそろかなって。そろそろエンディングだなと。

無職になってから結婚と言うのが珍しいですよね。

うん。さやかと19、20のときに出会って、それからお店と出版とやってきたから、あんまり会えなかったんだよね。さやかは普通のOLだったんだけど、1週間に1回も会えない。で、次はさやかと何かやりたいと思ったの。それで「何する?」「まず結婚しよう」って。まぁ、結婚はずっとしようと思っていたからね。さやかも「じゃ、私も会社辞める~」とか言ってさ。なんかよくわかんないけど、ふたり揃って寿退社(笑)。で、ふたりとも無職でどうすりゃいいんだよって思ってさ。さやかに「お前ドラゴンボール7つ揃ったら何したい?」って聞いたら、「何でも叶うとしたら、歩と一緒に世界一周旅行したい❤」ってさ。俺、超脳みそスパーク。やべぇ、ふたりで世界一周、超熱い! それで「しよう!いつする?」「結婚式の3日後」「OK、OK。最初はどこ行きたい?」「グレートバリアリーフ!」。すぐにHISに電話して、結婚式の3日後に航空券を予約したよ。でも俺さ、退職金とか全然持ってなかったの。ただ辞めて、株式も全部仲間にあげていたからね。だからさやかが持っている、財形貯蓄とかなんとかいうOL貯金を「全部おろせ、おろせ」って言ってさ。

資金はそこから出したんですか?

だって俺、退職金持ってないもん。それが美学だから。株式とか持っていたら、辞めたとは言えないじゃん。ビジネスマンの友達は「そのために創業したんだろ?」ってみんな言うよね。でも俺はそうことじゃない。金なんていつでも稼げる。やったことは、全部経験として残っているんだからさ。やり方も失敗のクリアのしかたも自分の中には残っている。ドラクエだって最初に戻っちゃったらキツイけど、まあちょっと徹夜すれば同じところまで行けるわけじゃん。

さやかさんとの世界一周はどんなルートだったんですか?

最初の行き先だけは決めて、あとは期間もルートも決めなかったよ。バックパック背負って、金がなくなったら帰ってこようと。それで約2年行っていたね。行くって決めてから出発まで半年くらいはあったから、それまで工事現場で働いたりしてさ。でも仲間が結婚式の二次会で、自分らの店を貸してくれて、自分らの酒をいっぱい持ってきてくれてさ。「歩、金いるんだよな。二人が知らない奴ら呼んでもいいか?」って言うからさ、OKって言ったら、ひとり会費8000円かなんかの盛大なパーティーよ。知らない奴も600人、700人くらいいるパーティーを開いてくれて。それで現ナマ、ドーン!ともらって。半分以上はそのお金だったよ。

世界一周旅行で一番感動したことは?

みんながそういう話を聞きたいかどうかはわからんが。俺が一番心が動いたのは、やっぱり、さやかはいい女だってことだな。旅の結論としては、この人とずっと一緒にいようと、よりいっそう思ったよ。

では改めて日本を外から見て、日本の良さを感じたことはありますか?

まず俺は、日本人とは一言では言えないと思う。日本人もとても多様で、いろんな人がいるからね。日本は、という問いがあんまりない。あいつは、というのはあるけどさ。

それでも意識的に言うとすれば、やっぱり日本は四季を意識するんだよね。1年間を春分とか節分で分けて、それぞれに季語があり、それが料理になり、俳句になり、七草粥みたいな生活の知恵になり…。そんな国は他にはどこにもない。そういう神経、細やかさは、やっぱり風土が根っこにあるんだよ。風土とともに生きるという感覚だね。

それと重なって、八百万の神という考え方も素晴らしい。よくオレは『千と千尋の神隠し』と『ハリー・ポッター』を比べるんだけど、『ハリー』は一神教で正義か悪かの世界だよね。でも『千と千尋』は、もうみんなが神でみんなが悪でぐちゃぐちゃ~って感じ。どちらかと言えば、俺は『千と千尋』のような、皆の中にも神様はいるし、自然の中にも神様入るって言う感覚の方が好き。それと自然を細かく分けると言うのは、ひとつのもののような気がするよ。日本人は、ポトって垂れる水の一滴に神を感じたりする民族なわけじゃん。そのフィーリングが、料理やアートに表面的に出てきているけど、根っこにはそういう気持ちがあると思う。それが日本人のすごいところだよね。他の国には真似できないようなものだと思う。

逆に日本人のここが弱いな、と思うところはありますか?

ベタなところで言えば、シャイということ。たとえば、ペルーでバスに乗った。おばあちゃんが重そうにして、ちょっとつまづいた。そこにいたアメリカ人も日本人もペルー人も、あのおばあさん大丈夫かなって思っているのに、実際に手が動いているのはアメリカ人だったりするんだよね。

もちろんいい意味でのシャイというのもあるけど、海外で照れて何もしないのは、それは思っていないのと同じなわけ。みんな本当はやさしいのにもったいない。そこは旅していて随所に感じる。俺も含めてね。日本なら照れているのがわかるじゃん。電車で席譲るときとか、みんな照れている。逆にシャープに「どうぞ」なんて言うほうが、バイリンガル?みたいな感じだよね。

でも海外はそういのはないよね。もじもじしている間に他の人が行っちゃう。悪いこととは言わないが、日本人に優しい心がないと思われるのは嫌だと思う。シャイな部分は日本の美徳とされているけど、海外にその美徳は理解されていないよ。これは日本を代表して言っているんじゃなくて、自分に言い聞かせているんだけどね。

2000年にオープンした沖縄の「ビーチロックハウス」はどんな目的で作ったのですか?

26歳から28歳まで旅して、日本に帰ってきて。日本のどこに住もうかって、バイクでさやかと回っていたんだよ。それで沖縄の国道58号、ごっぱち走ってたらヤラレちゃってさ。住むしかねぇって思ったの。ちょうど不動産屋があったから、ウィンカー出して、そこでそのまま家が決まり。でも金は全財産旅行で使っているからスッカラカン。それで仕事しなきゃ、って思ってさ。何やろうかなと思っているときに浮かんだのが、世界のいろんなところで見た自給自足的な村のことだったんだ。沖縄の海を前に、こっちで会った仲間、おじい、おばあと一緒に、自給自足で生活できる村をやったら楽しそうだなって。そんなこと言っていたら、また横に仲間が集まってきて。目先の金もいるし、いろんな勉強もしないといけないから、まず宿とカフェバーを併設した「ビーチロックハウス」をやりながら、ゆっくり作戦をたててさ。それで2005年には、自給自足のネイチャービレッジ「ビーチロックビレッジ」がオープンしたわけ。

歩さんの周りには、いつもいい仲間が集まってくるんですね。

そうだよなぁ。今もそうだしな。だって、俺、今社長として4つの会社をやっているのに、家族で世界一周してんだもん。それでたまに日本に帰ってくるだけ。それでもリタイアしているわけじゃないし。極端に言えば、俺が旅をすることで収入はあがっている。東京でガツガツやっているときよりね。それはやっぱり仲間がいるからじゃない?