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先輩メッセージ / Message18:自由人 高橋歩さん

2008年にはインドのバラナシに「mother baby school」を作っていますが、「学校を作ろう」と思ったきっかけはどんなことでしょうか?

最初は学校作ろうなんて計画はゼロだったんだよ。マザー・テレサはリスペクトしていたけど、俺が学校を作るなんて発想はなかったし、どちらかというと偽善っぽくて嫌いだった。でも旅しているときに、学校をやりたいと言っているインド人の女性に会っちゃってさ。なんか頑張って小さい子を預かりながら、月10円だか20円だかを貯めているの。そんなことやっていたって、一生学校なんてできねぇじゃん。それでも「いつか私達で学校をやりたいんだ」って言っているからさ。「じゃ、やるべ」って、いつもの調子で言ったの。内心「ヤベ、言っちった」と思ったんだけどさ、ま、言ったからにはやるしかないしね。

学校もある程度は寄付というのは必要だけど、なるべく自分たちで自立できたほうがいいからさ。1Fに学校を作って上にゲストハウスを作れば、お金も回るし、ゲストハウスの旅人が下で授業をできたりしたら素敵だねって話していたんだ。しかも俺は発注するのが嫌いだから、自分たちで作ろうってことになってさ。「自腹でインドに行って、俺と一緒にレンガ積んで学校作ってくれる奴募集!」とか言ったら、もう数時間で定員が埋まったのよ。で、あんまり来ても面倒見切れないから、80人で締め切って、みんなでレンガ2万個積んで学校を作ったの。インドの気温は50度。本当に死にそうだったよ。

現在は「家族4人で世界一周ファミリージプシーの旅」の途中だと思いますが、お子様を連れての旅と、さやかさんとの旅で違いを感じたことはありますか?

まったく別なものだよね。さやかとふたりの時の俺のミッションは、さやかを守ればいい、楽しませればいい。さやかが楽しいことは俺も楽しいわけだから、それはイコール俺が楽しめばいい。ただ、旅をナビゲートするのは俺だったけどね。さやかは完全に銀座OLだから。ハングリーのハの字もない人よ。ふたりで世界一周を何回もしているから、さやかはワイルド系と思っている人もいるんだけど、まったくだよ。「英語なんてブランド名しかわかんな~い」。そういう人だからね。

それでガキは今8歳、6歳だけど、4人で旅に出たときは6歳、4歳でさ。もう、こいつらをどうにかしないといけないじゃん。そういう意味では、俺とさやかで子供たちを見るというパターンね。でも面白いもんで、さやかも「私も守ってほしい~」みたいなノリがあるからさ。3人見なきゃいけないわけ。さやかはさやかで、俺を入れて子供が3人って言っているんだけどね。

そういう意味では大変だよ。「旦那さん」というだけでなく「父ちゃん」が入ってくる。しかも俺は「父ちゃん、最強」って子供たちが常に言ってくれるような存在でいたい、という思いが強いからさ。本当に俺からすれば、俺のことなんて誰も知らないような場所で、最高の審査員を3人連れているわけよ。一番かっこよく見せたい相手。だから俺にとってゃ、とてもいい試練でもあり、チャレンジでもあるよね。日々、自分を磨いて、成長しなきゃいけないと思っている。俺はぶっちゃけ、一般的にどう思われようがどうでもいいの。俺は「さやかにとってヒーロー」でありたい。それから子供たちに「父ちゃん、最強」って言われたい。それだけで俺はいいんだ。

旅だけでなく、カフェ、レストラン、学校、出版社など、数多くの事業に関わっていらっしゃいますが、歩さんを動かす原動力はどのようなところにあるんでしょうか?

またそういう話になっちゃうけど、俺は19、20歳で出会った時から、さやかにカッコイイと思われたいだけ。今もそう。夢はなんですか?って聞かれたら、さやかにとってヒーローであり続けること。ま、ちょっとミスチルのパクリなんだけど(笑)。でもそこに嘘はないし、曇りもない。

もともとさやかと会う前もヒーローになりたいという願望はあったと思う。普通に俺は、何人の女と付き合ったぜとか自慢しているようなよくわかんない奴だったしさ。でもさやかに会ってからは、世の中にとってのヒーローじゃなくて、さやかにとってのヒーローになりたいと思うようになった。そして、空と海 ―子供たちが生まれたらふたりを含んだわけ。

会社の中でも、俺は誰かのモチベーションを上げたいとかは思ってない。それはそいつにとって失礼な気がするんだ。みんなやりたいからやっている、という奴が集まっているだけ。だから会社というよりは、バンドみたいな感覚。俺にいい仲間ができる理由があれとすれば、俺はできないことはできないとはっきり言うからね。だから俺は頼れるリーダーじゃなくて、ボーカル。ギターは弾けない、だからギター弾けるやつは募集します。そういう感覚だよね。世の中的には「俺がリーダー」が、仲間内では「完全に横だよね」って話しているよ。

でもそういう組み方でやっていると、必ず途中で違う夢が見たくなって、離れる人も現れると思います。仲間が去っていく瞬間は、ご自身の中でどうやって処理をするのですか?

ま、俺はひとりでもやるけどね。そう思う。いい意味で矛盾しているって思うし、それが真実だと思う。俺は仲間が大切。仲間がいるからやれている。とイコールで、俺はひとりでもやる。逆に、ひとりでもやるって思えることしかやらないよ。

結局、ひとりになったって、新しい仲間ができるってわかっているんだよ。だから、ひとりでもやるけどなって思える。でも長く付き合っている奴らは「歩はひとりでもやるけどなって言っているから大将なんだ。お前はそこがブレないから、みんな家族がいても安心してお前とは仕事ができる」って言う。それがなぜかと言えば「お前がひとりでもやるって言っているから」だってさ。

そういう熱い人たちがいる一方で、今度は内向き、草食系などと言われる日本の若者がいます。こうした若者に対しては、どのように思っていますか?

単純に好きなことやれよって思う。俺、最近までピースボートに乗って、若い子たちと車座になって授業みたいなのをやっていて、不登校の子とかもいっぱい来ていてさ。あいつらは「いい中学出て、いい高校出て、いい大学出て」という親のはめた枠をなぞれなかったから、人生の落後者みたいな風に思っているフシがある。中学、高校はなんとか行けたけど大学は親の期待に答えられなかったから、僕の人生はもう真っ暗だ、みたいなさ。でも成績なんてさ、1万個くらいある能力の1個なわけじゃん。でもその成績が100%をしめちゃっているんだよね。それからスポーツ推薦で学校行ったけど、足が故障して俺が生きている意味がない、みたいな奴とかさ。そんなのジャンルにとらわれているだけだよ。

極端に言えば、学校なんて行っても行かなくてもいい。仕事もしてもしなくてもなんだっていいと思う。でも誰もがちょっとくらいは経験があると思うのだけど、好きなことはすごく成長するときがあるはず。たとえば、うちの子もゲームをやっているときは、ものすごい上達速度よ。それが将来、職業につながるか、つながらないか、なんてどうでもいいんだよ。本当にやりたいことを一生懸命やりながら、食うためにコンビニでバイトするのだって別にいいじゃん。

「俺にはコレだ!」っていう楽しいことだけをやれ。そして後は食うためになんかしろ。それを本当に極めて行ったら、どんなジャンルでも、ゲームだろうが、スポーツだろうが、なんだろうか、一定の知識と技術を越えたところから、俺は人の役に立ち始めると思う。そしたら自然と人の役にたてるわけだから、お金も入ってくるよ。ゲーム好きと言っても、ゲームプログラマー以外にもいろんな展開があるわけじゃん。昔はゲームだけをやっていました、でも今はこういう絵を描いています、という人だっていっぱいいるしね。一生懸命やって、そこで得た発想は生きてくると思う。それで食えるか食えないかわかんなければ、食うために何か仕事をやればいい。サーフィンが好きだったら、夜の仕事をやればいい。夜の遊びが好きなら、昼に仕事をすればいい。

俺は今37歳でしょ?周りを見ても、なんか社会で活躍しているのってだいたいそんな奴らばっかりだよ。オールマイティー系の賢い人、処理能力が高い人もたまにはいるけど、それは大企業の中のある一定の場所にしかいなかったり、小さい会社のリーダーだったりする。だいたい活躍しているのは、1教科のみパーンと抜けているタイプだよね。

そうした考えは、子育てにも生かされているんですか?

そうそう。俺は子供たちに、学校行っても、行かなくてもいいよって。まず、今行っていないしね(笑)。世界一周しているから。ジャーニー・スクールだよね。

私からはラストの質問です。海外に出たいと思っている若者にひとことアドバイスをお願いいたします。

何だろうな。ま、行きたきゃ行けばいい。行かなきゃいけないとは思わないけどね。でも俺は行きたいなと思って行った。わかりやすい例で言えばね、20歳でバーをやっているときに、店の中の客同士で、サイババは嘘か本当か、みたいな話になったのよ。本当だ、嘘だ、言いあっているから、面倒くせぇと思ってさ。「サイババのとこにマジで行く人、手あげて。ハ~イ!」とか言ったらさ、店員4人だけが手を上げて(笑)。で、1週間店閉めて、インドに行ってきたの。しかもそんな金ないからさ、ア○ムに行ってさ。「すみません、サイババに会いに行くんですけど、そういうローンありますか?」って聞いたら「ないです。ここに署名してください」って言われてさ。「なんだよ、コイツつまんねぇ」とか言いながらも、4日後にはインドに発ってたわけ。しかも偶然5000人の中から選ばれて、インタビュールームに呼ばれたからね。

すごいですよね。

なんか、見たことないことをぐちぐち言っているのは面倒くせぇじゃん。今で言えば、ちょっとウィキペディアをひいて、かいつまんで言って、さも知っているかのように言ったりさ。そういう話って、全然胸に響かないんだよ。でも見てきたら、なんだかんだ話も面白いじゃん。最近も、飲み屋やりたいとか言っている若者が多いんだけどさ。1年たってもそんな話をしている奴と、1回やってみたけど店がつぶれて、今佐川急便で働いて返してます、という奴だったら、俺は後者のほうが100倍は将来性があると思う。

ひとつ象徴的な例を出すね。俺、横浜の高校に行っていてさ、俺の友達がズームイン朝で「ふらのでは、ラベンダーの花が満開です」みたいなニュースを見たんだって。そしたら友達の彼女が「私もラベンダー見てみたいな」って言ってさ。友達が「じゃ、今から行ってくるよ」って言って、仲間から400円とか500円ずつガソリン代もらって、横浜から北海道に向かったの。で次の日戻ってきてさ。群馬でガソリンがなくなって、ガソリンスダンドの兄ちゃんに「俺、ちょっと働くんでガソリン入れてもらえませんか?」って言ったんだって。そしたら兄ちゃんに「いいから行けよ」って言われたらしくてさ。それでふらのに行って帰って来たの。それで彼女に渡したら、やっぱり彼女は号泣ね。水とかちゃんと付けてないから、若干枯れ気味なんだけどさ。でも俺もそいつを見てさ、こういう感じで俺も生きて行こうって思ったよ。

40、50歳もそういう感じでいこうと?

ま、ネタだけは増えて行くかもね。失敗した話もね。後で面白可笑しく飲めればいいんじゃない?

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平

※今回は高橋歩さんの大ファンでもある内田冴美さんも取材に同行。どうしても聞いてみたかったという質問をぶつけてみました。

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