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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>タリーズコーヒージャパン㈱創業者 松田公太氏

先輩メッセージ / Message08:タリーズコーヒージャパン㈱創業者 松田公太氏

でも最初は7000万もの借金を負ったそうですが。気持ちが折れることはなかったのでしょうか?

逆に借金を抱えちゃうと折れないんです。これも私のポリシーのひとつですが、自分をなるべくがけっぷちに立たせておこうと思うんです。実は、今、私がシンガポールに拠点を移したのも、ひとつはそのポリシーのためですね。このまま日本にいたら、正直楽はラクです。いろんな会社から経営をやってくれないかというオファーも来て。実際に海外の食品ブランドやら、ピザやらドーナッツやら、いろんなお話も頂きましたが、自分が納得したものしかやりたくないという思いがあり、御断りしました。これもポリシーのひとつのですが、私はな体に悪いものはやりたくないんです。たとえばジャンクフード。子どもたちに食べさせたいと言うと、やっぱり食べさせたくない。どんなに自分が経営して300店まで店を広げたとしても、子どもたちがそれを食べて成人病になってしまったら、自分が死ぬときにすごく嫌な気持ちになると思う。だからやりたくないんです。それにすでにたくさんショップやブランドが競合している中に、無理やり新規のブランドとして入って行っても、消費者がそれを喜ぶかというと疑問ですから。

ともすると、利益ばかりを追いかける経営者も多いですよね。その中で、子どもたちに残すべきかどうかで事業を考えているのは、すごく素敵だと思います。

そういうポリシーがあると、判断するのが楽なんですよ。やっぱり自分だって一瞬悩む時がある。メジャーなブランドが日本に来て、絶対に行列ができるはず。儲かりそうだな……。そう思うわけです。でもそこでやめられるのは、自分の中でポリシーがあるからですよね。それは経営理念と言いかえてもいいかもしれません。経営理念がなんで必要かと言うと、悩んだ時の判断基準になるからなんですよね。「AとB、どっちがいい?」というときに、経営理念を思い出せば「Aは理念に近い、Bははずれている」、そうやって選ぶことができるんです。

常にそうやって新しいものに挑戦されている松田さんですが、バイタリティの源になっているものは、何なのでしょうか?

私の場合は、幼少期から自分が日本人であるという強い意識を持っていて、日本のいいところを世界に紹介したいと思っていたことが原点ですね。そこからちょっと発展して、海外からいいものを持ってくるのも、日本の文化に多様性を持たせる意味で重要なんじゃないかなと思ったんです。そうやって両方向からアプローチすることで、文化の架け橋になりたい。それが、自分の原動力なんです。本当に面白いし、やりがいもすごくあるんですよね。だからもう、理屈じゃないかもしれない。子どものころ思いこんでしまったことを、一生ずっと追い求めることができるのは本当に幸せなことです。

現在の拠点に、シンガポールを選んだのはなぜですか?

一度はアジアのどこかに住んでみたいと思っていたんです。やはり今、発展力があって、勢いがあるのはアジアです。それからシンガポールのすごさというのは、あれだけいろんな人種が集まって、いろんな宗教が集まっているのに、国としてまとまっているというところ。そんなに大きなトラブルもテロもない。あれだけ裕福な国で、本当ならもっとテロとか起こってもおかしくないはずなんですよ。

現在、私はシンガポールで、Face+by Yamanoの経営に携わっているのですが、スタッフにはマレーシア人もいるしインドネシア人もいるし、もちろんシンガポール人もいる。宗教も違えば、食べるものも違う。でもみんな仲良くできている。それが本当に素晴らしいと思います。日本にとって参考にすべき国ですよ。私は、日本はもっと移民を受け入れて、人口を増やしていく政策をとるべきだと感がえています。

労働人口不足が問題になっている現在ですが、労働人口を増やすために労働省がやっているのが、シニアや女性、ニートの支援だったりします。しかし、少子高齢化が進む中、将来のことを考えると、本当はもっと外国人を呼ばないといけないと私は思います。そして海外からの移住者を受け入れる体制をつくらなければないといけない。海外に行ってマイナーリーグを経験した若者たちは、絶対にその接着剤になってくれるはずですよね。

移民推進に対し不安に思う方もいるかと思いますが、本当に海外を経験したら、外国人は何も怖くないということが理解できますしね。同じ人間なんですから、絶対にわかりあえます。日本も、もっともっと移民を増やそう、という風潮になってもいいはずですよ。シンガポールは、ちょっと前まで人口約400万人で、今は約460万人にまでなりました。そして数年後には600万人にしようという明確な目標を持っている。それも規制を作って移民を増やしているんです。そこは日本政府も選考にするべき良い例だと思います。たとえば、最初の10年間は大卒以上を受け入れよう、専門知識を持っている人を受け入れよう。それができたら、今度はその枠を下げていく。そうやってだんだんと広げていけば、みんなが心配しているような犯罪の上昇などは起こらないと思います。ただ、そんな政策をとると、今度は「大卒だからって差別じゃないか?」なんてう人声も出てくると思います。でもどこかから始めないといけませんから、何を基準にするかは難しい問題ですが、規制は必要ではないでしょうか。

そうでもしないと、これからますます人口が減り、消費する人も少なくなってしまっては外食産業はたちまち、立ち行かなくなってしまいます。海外に出て改めて思うことは日本の若者に元気がないということです。私が学生のころは少し無理をしてでも車を買ったりしたものですが、今は消費欲が減っているように感じます。また、子どもを産んだことがないのに、子どもはいらないなんて言う人もいます。人口が減っていく以上のスピードで、欲が減っているような気がします。でも海外から来る人は、ハングリー精神を持っていますからね。それは日本にとっていいカタルシスになるのではないでしょうか。

逆に海外に出る日本の若者に、身につけてほしいものは?

当たり前ですけど、視野を広げてほしい。多種多様な文化に接する機会は明らかに増えますから、いろんな国の方とお会いして、視野を広げてほしいです。それから自分が日本人であるという原点に立ち返って、日本を良くするためにはどうすればいいのかな、って考えてほしい、そして考えたことをぜひ実践してほしいですね。私も海外に出て、いろいろチャレンジしていますが、これは日本から逃げているわけじゃなく、そこから学んだことを日本に返していきたいと思ってやっていることなんですよ。

松田さんの夢と目標は?

夢はずっと変わらず、文化の架け橋となること。Face+by Yamanoもその一環なんです。「なぜ食べ物じゃないの?」と言われることもあるのですが、本当に日本のいいものを紹介したいという気持ちだけなんです。山野は日本の中でも老舗エステで、店舗数も多くて、75年物ノウハウが蓄積されていますから、その技術も世界トップクラスです。それになんといっても、サービス業に大事なホスピタリティも確固としたものがある。ホスピタリティはまだまたアジアには根づいていないし、彼らはお金さえかせげればいい、と思っているフシがある。日本人のおもてなしの考え方は、どんどん日本以外に移植したいですね。実際、Face+by Yamanoやタリーズで働いている海外のスタッフは、おもてなしという意味をわかってくれている。全員、帰るときには「おつかれさまです」と言いますし、一期一会という意味も理解してくれている。それを理解してくれた海外のスタッフたちが、家に戻った時に「日本人はこんな考え方しているんだよ」って伝え続ければ、みんなが「日本は面白いな」「いい国なんだな」って思ってくれるのではないでしょうか。

最後に、海外に行く子だけじゃなくて、若い子すべてに何かメッセージをいただけますか?

私に相談に来る人たちは、なかなか自分の目的が見つからないと言う人が多いです。何をやっていいかわからなくてやる気が出ないと…。そういう人たちは、過去から自分の人生をもう一度思い起こしてみて、何が一番楽しかったか、嬉しかったか、悲しかったかを考えてみることが大事だと思います。私が子どものころ食文化の違いにショックを受けたように、思い起こした喜怒哀楽の中に、自分が将来やっていきたいヒントがあるかもしれませんから。もしそれでも見つけられなかったら、自分の家族、親戚、、さらには街の人が喜ぶことって何だろう?悩んでいることは?と視野を広げればいいんです。それでも見つからない場合は、海外に行ってみること。自分が将来何をしたいのか迷っている子も含めて、できれば1回は海外に留学してほしい。間違いなく視野が広がるし、見えていなかったものが見えてきます。そこで人生の目的に出会えることもあるはずですよ。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平