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先輩メッセージ / Message25:中原徹先生

今、おっしゃったのは要するにアウトプットの部分ですよね。ベースになる部分では、何が必要だと思われますか?

それは、絶対に負けるもんか!というプライドですね。俺は東大出身だ、なんていうプライドじゃないですよ。そんなものは、世界の人からすればどうでもいいことですからね。そうではなくて、俺はこういう人間だ、ここだけは譲れない、というものがある人はやっぱり強い。だから、学生のうちに、自分にとってのアイデンティティ、自分にとってのプライドはどこにあるのかということは、きちんと把握していてほしい。それが学歴だとかいう人は、今の世の中ではいらない人間です。アメリカでも、何かにつけて、学歴だとか家柄とかいう奴はもうダメですから。難関大学に入って、その名前だけもらえれば一生安泰だと思っている人は、一生伸びないですよ。

貴校の中では、グローバルコースの設置や英語能力を伸ばす授業など、いろんな取り組をされていますが、今後の施策としてはどんなことをお考えですか?

現在、ハードはほぼ揃えたと思っています。英語で突き抜けたいという人は英語に特化したコースを設けたり、理数系を極めたいという人にはいろんな大学と連携して、大学生と一緒に実験に参加させてもらったり。それからIT社長に集まってもらって、若い30代の社長たちとパネルディスカッションさせたり。

それから答えの出ない課題について議論させるという授業も行っています。たとえば去年は、元プロボクサーとキムチ会社の社長、それからフリーアナウンサーの3人をお呼びして彼らの人生についてお話を伺い、そしてその後に「高校生カップルがコンドームをつけないでセックスしたら赤ちゃんができてしまった。どうするべきか?」といった問題について考えさせる授業を行いました。正解は決してひとつではない問いかけです。やはり生徒たちからも、いろんな意見が出ましたよ。

現代の子ども達は、答えがあるはずだ、早く答えを教えて、と思っています。ところが世の中に出たら、ほとんど答えがひとつの問題なんてありません。だからこそ、こういう授業も増やすようにしているんですよ。

論理的思考の授業も取り入れているそうですね。

はい。それも一年生は必須の授業にしています。どうやったら非論理的になるかという例を示しながら、どうしたら相手に伝わるか、伝わらないかというのを考えさせる授業ですね。例えば、「帰り道に花屋があった。だから私は花を買った」と言うと、わかったような、わからないような気持ちになりますよね。でもその間に、「今日は母の日だった」と言えば、ああ、そうなのか、と納得できる。こっちは当たり前なのにと説明しても、相手は納得しないことがある。そういった例を示しつつ、これで意味は通じる?通じない?という、議論をするわけです。

そんなことを1学期でやりながら、2学期では情報の授業とタイアップして、あるテーマに沿ったパワーポイントのファイルを作らせて、そして3学期では生徒一人一人に、そのファイルを使ってプレゼンをさせます。情報の授業で、単にパワーポイントの使い方を教えるのではなく、テーマを持ったパワーポイントの処理を覚えさせるわけですね。そしてその集大成として、1人でプレゼンをさせるわけなんです。グローバルコースという新設コースでは、2年時もその授業を続けています。もちろん受験勉強の時間もなくなりますが、そんなことよりもこっちのほうが大事じゃないのかという考え方ですね。

貴校では、ユニークなイベントもあるそうですが。

7月の期末テストが終わったころに、「トロピカルデー」という各人がクリエイティブな奇抜な格好をすることが許される日を設けています。トロピカルデーのルールはだたひとつ。「なんであなたの服装はトロピカルなの?」と聞かれたときに、「ここがトロピカルやねん」と説明できること。ただし、へそ出しと水着は禁止。あとは、どんな格好をしてもOKです。髪の毛をその日だけグリーンにしてきてもいいし、ピアスを100個つけてきてもいい。実際に生徒の中には、モジモジ君みたいな全身タイツを色違いで揃えて着てきた子達もいましたよ。水鉄砲を持ってきた人もいるし、授業中にシャボン玉を吹いた人もいましたね(笑)。

そしてその日は先生に、「アホなことをやった子ほど、ほめてやってほしい」と言っているんです。つまり、堅苦しい学校でもこんなことができるんだ、という「既成概念を壊す」発想を伸ばしてやりたいのです。日本人の学生は、発想勝負ではきっとアメリカには負けているでしょう。アメリカは、とんでもないものを見つけてくるのが得意です。日本人はそれを便利にアレンジするのは得意だけれど、誰も気づかないようなことをいきなりぶちまけて来ると言うのは、苦手ですからね。

さまざまな取り組みに挑戦していらっしゃいますが、生徒や親ごさんの反応はどうですか?

ううちの高校は、生徒数1100人強なのですが、1100人もいるとやはりいろんな考え方がありますよね。大歓迎している人もいれば、まだまだ私の思いが届いていない人もいる。それから反対意見もありますよ。それでも大分浸透してきていると思います。

またTOEFLを取り入れた授業「英語超人」は、もともと18人でスタートしたクラスなのですが、その中の5人(2年生)が今では667点満点中500点以上を取っています。それもまだ勉強し始めて1年で、TOEFLのすべての範囲の勉強は終わっていないんですよ。それでも500点以上取っている。その子たちは2年生から始めていますが、今年度のグローバルコースの子たちは1年生からこの授業をやりますからね。今後が楽しみです。

それを私立でやるのは理解できますが、公立高校がやるのがすごいと思います。民間人校長ならではですよね。

今の公教育が100点中90点だというのなら、変に民間人を入れて改革するのはリスクが大きいですけどね。でも今、保護者の意見を聞いたら、もうちょっと公立には頑張ってほしいという思いは必ず出てくると思います。だからこそ、大阪で私立と公立学校の無償化をやったら、私立にドンと流れてしまったわけですよね。それを考えたら、民間から校長を入れてきて、生え抜きの先生も頑張って、それで切磋琢磨して教育の質が上がったら、それでいいのではないかと思います。

現代の日本では、教育に限らず、年金、税制、地方分権にしても、今のままでいいと思っている人は少ないと思います。今のままでいいですか?と聞けば、メディアも一般の人もあれが悪い、これが悪いと言います。じゃあ、これをやりますよ、と言うと、それは拙速に過ぎるなんて意見が出てくる。じゃあ、何をいつやればいいの?そう問いたくなりますよ。

これから海外に飛び出していこうという学生や若者に、何かメッセージをいただけますか?

まずは行動することです。100万回考えて、うだうだ話していたって、何も変わりませんから、まずは体を動かしてほしい。そして海外に行ったら、勝負から逃げ出さないでほしいですよね。やはり力を見せつけないと海外の人はバカにするし、力を見せた途端に尊敬の目で観てきます。そういう意味で、自分の力を発揮できる場から逃げないでほしいです。100回負けたって、101回目に勝てば、勝ちは勝ちです。何度失敗してもいいから、勝負から逃げずに相手をギャフンと言わせてやろうというファイトを持ってほしいです。勝負は何でもいいんですよ。グラフィックデザインの勉強のための留学だったら、教授に君のデザインがクラスで1番素敵だと言われるのでもいい。何かのコンテストや大会で勝つと言うのでもいい。とにかく外国の人が尊敬するような結果を出すことです。

お客さんとして扱われている間はダメですよ。向こうに疎ましく思われるぐらいでいいと思います。私のロースクール時代、とても真面目な米人同級生がいて、英語が苦手なアジア圏の人達が皆「ノートを見せてくれ」と頼みに行っていたんです。それで私も調子に乗って頼もうとしたら、「君はダメだ」と。要するに、少しずつ私の英語力も上がってきて、もしかしたらライバルになるかもしれないと思われたから、断ってきたんですよね。「日本から来て困っているから助けてよ」と言っても、「それはアンフェアだからダメだ」と言われてね。でも私は逆に嬉しかったですね。やっとお客さん扱いされなくなった、対等になれたと。

結局、お客さん扱いで皆が親切にしてくれる、というときは、相手にされていないと思った方がいいですね。例えばフランスでパティシエ修行をしたり、ウィーンで音楽修業をしたり。その中で、足をひっぱられたり、嫌がらせをされたりするというのは、認められたということにつながると思います。それはある意味、評価されたということ。今後、海外に行く人達にも、そこまで挑戦し続けてほしいと思いますね。

そして願わくは、嫌がらせをされても、悪口を言われても、日本人らしく堂々とした態度を取ってほしい。相手からは疎まれているのに、日本人ならではの思いやりや謙虚さを持って、相手への気遣いもできたら、素晴らしいじゃないですか。周りにはギャーギャー言われていても、自分はフェアプレーで戦う。日本人の良さがそこで出せるのであれば、それは一番かっこいいことだと思いますよ。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平