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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社せおん 代表取締役  越純一郎氏

先輩メッセージ / Message21:株式会社せおん 代表取締役 越純一郎氏

内向き志向の若者が増えているという声もありますが、越先生は今の若者についてどのような印象をお持ちですか?

私は日本の若者には、エネルギーとポテンシャルがあります。これほどの就職氷河期でありながら、現実に立ち向かっています。こうした経済状況にしてしまった犯人である、大人たちがサボタージュを決め込んでいるのに、若者たちは自分の道を切り拓こうと努力しています。日本の若い方が力を失っている、元気がなくなっているという声はありますが、それは私の実感とは合いません。私の周りには、ものすごく元気で、目が輝いていて、しっかり生きている若者たちがいっぱいいます。

例えば、先日、私の会社が主催して、アメリカのビジネス・スクールへの留学に関する説明会をやりました。その説明会には、企業の人事部としては、野村証券の人しか来ませんでしたよ。大人のほうがダメだと、その時は感じました。でも、集まって来た学生20人と、若いビジネスマン100人……彼らの熱気と目の輝きときたら!彼らは皆、金はない人たちですよ。でも自分の力で、自分の人生を築きあげようとしている。ハーバードのビジネス・スクールの授業料は年間4万ドル、2年間で8万ドル。生活費を含めると、2000万円近く必要です。しかし、彼らは自分で何とかして捻出しようとしています。人に頼ろうなんて思っていない。この心がいいですよね。金がない、能力がない、でも志がある。この3つの事項を持つ人はだいたい人生が成功します。だから私は、これからの日本で、人生を成功する若者はたくさん出てくると思います。

カーネギーの言うとおり、高度成長の時にホンワカ暮らせると思った連中は、皆ダメになっている。今、人材会社やハローワークに行ってみてください。専門性のないオジサンたちが、とても辛い目にあっています。でも、これからは違ってくると思います。「私はこれが専門です」。そういう人がたくさん出てきますね。日本は、幸か不幸か、貧乏になってきました。そうすると、立派な人材が出てくるんです

日本は戦後、貧乏になりました。だからこそ、頑張ろうという気が湧いて、高度成長を実現できたのです。これからの日本は、人口減少や少子高齢化で大変だということが共通認識になっている。だから、「じゃあ、どうしよう」、「私はどうしよう」と考えて努力する人が増えてくるはずです。中には、組織にしがみつく人もいるでしょう。でも、それは全員じゃないですよ。実際に、ウェブサイトに留学説明会があると書いただけで、何百人も参加者が集まりました。また、2000万円でも自分で稼いで貯めようとする。そういう若者が、うじゃうじゃいます。きっと昔よりも増えているでしょうね。

私が20代、30代のときは、留学するというと「企業派遣留学」ばかりでした。自分の力じゃなくて、会社にお金を出してもらって留学する。そういうイージーな時代があったんです。その頃の方々の多くは、50歳を迎えて「能無し」になっちゃったケースも多いと思います。結局、人の力に頼ろうとか、人を利用して自分が得しようなどという人は成長しないのです。逆に、「こんなに景気が悪くちゃダメだ。自分で何とかしないといけない。」と考えた人が、結局は成功するんですね。人生は平等では有りません。誰でも成功できることが保証されてはいません。しかし、
  「誰でも成長できる可能性があること」
  「過去は変えられないが、未来は変えられること」
  「他人は変えられないかも知れないが、自分は変えられる
これらは誰にでも平等に保証されています。

最後に、海外に出たいという若者に何かアドバイスをいただけますか?

不利・有利は、需給関係をよく考えて決めてほしいということですね。要するに、皆がやっているというようなことは競争者が多くて、不利なのです。皆が見向きもしない分野なら、競争者が少ないので有利です。若干の専門性さえあれば十分にやっていけることも多いでしょう。例えば、「外国の特定の国に深くかかわって、専門家として有利に生きて行きたい」という人から、「どこの国がいいでしょうか?」と聞かれたら、「ヨーロッパならスウェーデン、アジアならタイ」と私は答えますね。それではステップ7をご覧ください。

スウェーデンは、教育の面でも、一人あたり国民所得から言っても、多くの面で日本の行政や企業がお手本にしようと考える国です。スウェーデンには、ボルボ、H&Mなど、有名な企業がたくさんあります。スウェーデン大使館で毎月1回、日本人向け勉強会がありますが、ものすごい数の人が参加しています。きっと、スウェーデンの専門家だというだけで、商売になるはずです。しかしながら、今の日本には、スウェーデンの専門家は非常に少数です。スウェーデンについて講演している人だって、2年程度しかスウェーデンに滞在したことがないというケースも少なくありません。スウェーデン語を自由に操れる日本人は、私の周囲にはいません。だからスウェーデンの専門家になれば、一生食いっぱぐれないでしょうね。同じようにデンマークなど、日本人が見向きもしなかった他の国にも注目したいです。

それからアジアなら、タイがおすすめですね。なぜならば、中国関係等に比べて、競争者が少ないからです。今の日本人の目は、中国に向いています。中国の次としては、ベトナムも注目されています。それから定年退職した人が移住する、いわゆるロングステイの場所として一番人気があるのは、マレーシアです。また、大きなマーケット、つまり人口が多い国はどこかと言えばインド、それから2億の人口を抱えるインドネシアが注目されています。そうした国に関する専門家は、たくさんいます。一方、タイの人口は日本の半分の6000万人程度なので、マーケットとしてはあまり大きくはありません。ですから日本の商社の中で、タイ人と同じだけタイ語を話せるという人は、ほとんどいないと思います。日本の大手金融機関の中にも、タイ語でビジネスできる人はほとんどいません。また、例えば、バンコクに日本会社が保有するホテルは一つもありません。にもかかわらず、実は、タイには日本の企業が6000社以上も進出しているんです。製造業が中心です。中小企業も多いです。タイの日本人学校は世界最大級で、生徒は2000人もいます。そのくらい日本人が多く住んでいます。それなのに、「タイの人口は6000万でしょう?」なんて言って、誰もタイの専門家になろうとしない。だから今、タイの専門家になれば、これはかなり高い確率で豊かな人生になるでしょうね。「地球上のあらゆる国の中で、最も親日的な国はどこか」と聞かれたら、それはタイ台湾です。これを理解していない日本人も結構いますが、台湾は日本にとって世界で最高の友人ですね。中国とは全然、違います。「日本人が困っているなら、助けなくてはならない。」と思ってくれるのは、台湾タイトルコなどでしょうね。タイの親日ぶりというのは、皆さんの想像をはるかに超えます。毎年11月頃に行われる人気投票があるのですが、「タイ人が一番好きな外国人は?」という質問では、必ず日本人が一番。タイに有名なメロドラマが2つあるのですが、片方は、タイ人の男女が主人公なのに、舞台は日本の箱根と鎌倉。日本のオシャレなメロドラマの舞台がパリとニューヨーク、みたいな感じなんです。もう一つの「クーカム」という有名な恋愛小説は、ヒロインがバンコクの女の子で、恋の相手は日本人なんです。それにタイ人にとって、日本人と結婚すると言うのは鼻が高いこと。ですから財閥のトップの方で、奥さんが日本人というのも非常に多い話です。そういうことが、日本では良くは知られていません。

しかし、なかには気づく人もいいます。例えば、ある弁護士は、「アメリカ関係には、すでに優秀な日本人の弁護士がたくさんいる。中国にも、日本の有名な弁護士事務所がどんどん進出している。自分がアメリカ関係や中国関係の弁護士になっても、競争が厳しすぎる。だから、競争者がいない国を探し、そこで勝負しよう。」と考えて、彼は自らタイを選びました。タイの弁護士と組んで、日本とタイの両方に事務所を持つ弁護士事務所を作ったんです。今ではすごく立派にやっていますよ。

今後は日本の企業も、地域専門家という採用制度をとればいい。私は本当にそう思いますよ。例えば、サムスンはそうですね。サムスンでは、例えばロシアの専門家として採用されると、ずっとロシアだけを担当します。日本でもそういう専門性を重視した採用のしかたをすればいい。「何でもできて何にもできないジェネラリスト」と評価されて職を失うのでは本人も気の毒ですが、そうした方が増えることは、日本のためにも良いとは言えません。だから、企業も専門性重視という旗を掲げていくことが大事ですね。

それから競争を喜び、競争に飛び込んでいくこと。競争というのは、実にすばらしい。これは私の言葉ではありませんが、「質を高めたいというなら、競争が一番。芸術でもスポーツでもビジネスでも。」人間は、もともと怠け者なんです。でも競争の中に突っ込まれれば、一所懸命にやらざるを得ない。自然と一所懸命になれるんです。

では「競争がなければ、一所懸命にやる人間がいないか」と言えば、これはNOですね。競争があってもなくても、一所懸命にやる人間はいます。そしてそういう人というのは、心の中に自分の理想を持っている、自分の目標を持っている、自分に対して何かを約束しているんです。だから、「自分との約束を達成しているかどうか」で、日々の自分を図るんですね。人と競争するのではなく、自分と競争しているような状態です。そういう方が、志を持った人間なのです。

そういった方々は、良い意味でのプライドがあります。プライドとは、鼻の先にぶらさげておくものではなく、試練を耐えるときに内側から自分を支える杖です。それが本当のプライドです。そういうものを持っている人間と持っていない人間というのは、いずれ違いが出てくるんですよ。プライドは鼻先にぶらさげておくと、匂って「臭い」。見えないように、内ポケットに入れておくくらいがちょうどいい。そしてしんどいときには、自分を内側から支えてくれる。プライドというのは、そういう意味のものです。そしてプライドを持って生きている人間というものは、ぼんやり生きている人とは明らかに違う。これが私から若い読者の方々への最後のメッセージです。

ありがとうございました。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平