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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>ソーシャルファシリテーター人  中野裕弓さん

先輩メッセージ / Message20:ソーシャルファシリテーター 中野裕弓さん

本が出たとき、周りからはどんな反応がありましたか?

訳してすぐに、講演会などで参加者の皆さんにコピーして渡していたのですが、やはり「衝撃的でした」という声が多かったですね。「100人というのがわかりやすい」という声が圧倒でした。でも本当にブームに火がついたのは、911テロの後ですね。

私の原本の訳には最後に5行の有名な詩が載っています。
「お金に執着することなく喜んで働きましょう。
かつて一度も傷ついたことがないかのごとく人を愛しましょう。
誰も見ていないかのごとく自由に踊りましょう。
誰も聞いていないかのごとく伸びやかに歌いましょう。
あたかもここが地上の天国であるかのように生きていきましょう。」

この詩はもともと「・・しなさい」という命令口調だったのですが、訳すときに勝手にLet’sに変えたんですよね。そしたら、ブームの秘密をいろいろ分析していた新聞社の方が、「中野先生。あの5行の詩を命令文ではなく、Let’sという誘い文に意訳していますね。それが人々の希望に繋がったんじゃないですか」って言ってくれたんです。素直に嬉しい!と思いましたね。

命令系をLet’sにしただけで、心の浸透度があがったんですね。

911のテロで、ビルがふたつ倒れるのを見たら、それだけでみんなの心にストレスがたまるでしょう? そして生き方を正さなければって自重気味になる人もいますよね。でもこのメッセージを読んで、「ああそうか。世界はこんなにいろんな人がいるんだな」「楽しいことをして地上の天国のように生きていきたいな」みんながそう思ってくれたら素敵ですよね。だから敢えて「・・しなさい」という上からの諭しではなく、「・・しましょうよ」と促す意訳にしました。私は同じ目線に立った上でソーシャルリースでつながりたい、という考え方がベースですから。

キャリア志向だった中野先生が、心のケアに関心を移していったのには何かきっかけがあったのですか?

「男と互角に働くのが目標」と言っていたキャリアOL時代に、心の中に虚しさがあったからでしょうか。あのときはいつも何かもの足りなく、なにか虚しかった。きっとそのまま階段を登りつめて、たとえ女性の首相になったとしても、そのメンタリティのままだったらむなしかったでしょうね。結局、外から見えるもので地位を築こうとするのは、自己満足以外の何物でもありません。いつ人生が終わっても「ああ、地球は面白かった!」と言えるようにするには、目線をまったく変える必要があるんですね。キャリア志向で体がぼろぼろになったことが、心のケアが大切と気付くきっかけになりました。

やはり中野先生もキャリア志向だったころには、誰かに認められたいという思いがあったということでしょうか?他人のものさしで物をはかっていた部分があったと?

まさにそうです。人からどう見られるかが気になって、気になって、ストレスレベルはものすごかったんです。常に競争して、今日はアップ、今日はダウン、と一喜一憂していました。自分にはダメだしばかりしている自分にも疲れ切っていました。でも一方で、「自分のものさし=自分の幸せ」にフォーカスしている人は、とても幸せそうなんですよね。幸せは外側にあるのではなく、心の内側にあるものだと思いました。

加えて、私は世銀時代、トレーニングを受けて、末期のガン患者などのターミナルケアのカウンセリングのボランティアをしていました。そこで患者さんたちと話していると、どんなに財産を築いた人であろうとなかろうと、言うことはみんな同じだと気付くのです。それはれ人生の最後で誰もが人間同士の絆について話すということです。「あの人といて楽しかった。あの時のこと語り合いたい」「あの人に謝りたい」「もっと子供と仲良くすればよかった」「あの人に感謝を伝えたい」・・。最後に頭をよぎるのは過ぎてきた人生の人間関係のことだけだったのです。「年収がもっと欲しかった」「もうひとつ別荘やクルーザーが欲しかった」「管理職になりたかった」「地位や名誉が欲しかった」なんて話は一切出てきません。

人生の最後に旅立つ人が、私にくれた貴重な情報 - 他人からの評価や物欲ではなく、人と人との関係性・絆を大切にして、自分の人生の真ん中にしつらえておこう。それさえ真ん中に置いておけば、たとえ環境や条件が変わろうと自分の人生がそうぶれることはないだろう、そう思いましたね。

常に新しいメッセージを発信している中野先生ですが、感受性を高めたり、気づきを得るために、日々心がけていることはありますか?

瞑想はよくしています。忙しい日常生活の中でも、必ず一時的に自分をひとりにする時間を作るようにしています。本を読んだり、話を聴いたりして外から刺激を入れるのではなく、純粋にボーっとする時間、ですね。ヨガと同じで、動いたあとはゆっくり弛緩する時間が必要だと思いますから。

逆に何かをしようと能動的に動く時に、心がけていることはありますか?

私は常に自分に何を体験させてあげたら喜ぶか、「自分に体験させてあげたい」という感覚で動いていますね。この子をここに置いたら、どういう風に感じるのか、客観的に自分を見て、いろんな体験をさせてあげたい、なんて思っています。

「本当に楽しいかどうか」「心がワクワクすることかどうか」これが行動する時のチェックポイントです。

中野先生は、とても自分をかわいがってあげているんですね。

ええ、自分を大切にして、すごく可愛がっていますね(笑)。もともとはクリスチャンで育ってきているので、自分よりも他人を優先するという考え方で来たはずなのですが、私には合わないみたい(笑)。自分のことを犠牲にして人に何かしてさしあげるんだったら、楽しさが長続きしない。 自分がまず楽しいからこそ続けられる。自己犠牲の上で何かしてあげているというのでは、やってあげているという自己満足や傲慢さも出てきますから要注意なんです。

僕らが取り入れている、PCMという交流分析のセミナーの中でも、自分が満たされてないかぎり、周りに巻き散らせるのはストレスだけという考え方があります。

私も常に志が高い人間ではないですから、まだまだ発展途上中。調子のいいときはできることも調子の悪い時はできないんですよ。電車の中でお年寄りがいたら必ず席を譲るかと言われたら・・ケースバイケースなんですよ。ほんとに疲れているときは、、、急に眠気が(失笑)。でも常に自分がいい状態にいたら、言われるまでもなく立って席を譲ります。だから礼儀とか作法とかじゃなくて、根性論でもなくて、いつも徹底的に自分を満たしていい状況を作っておくというのが重要なんですね。

自己犠牲の精神で人に接すると、ストレスを感じるし、かえってマイナス。だから無理はしない。そして好きなことしかしない。「それじゃ、掃除などしなきゃいけないことはどうするの?」と言われるけど、しておくと気持ちがよいことは好きになるように工夫します。また、自分が苦手とすることも、楽しく得意にしている人がいます。そのためにチームが必要なんです。自分が苦手なこと、たとえばお金の計算とかを、得意として嬉々としてやる仲間をチームにしてしまうんです。 そしてそれが小さなソーシャルリースになるわけですね。全部が自分でやってすべて自分の手柄にする、なんて一人勝ちの考えはもう古いんですよ。チーム力がカギですね。

最近では「グローバルな人材が必要だ」と言われていますけど、中野先生が思う日本人がめざすべきグローバルな人物像を教えてください。

二つの意識を一緒に持っている人ではないでしょうか。ひとつは「私達は地球市民である」という意識。そしてその中で「私は日本人である」という意識を持っている。そのふたつが両立している人間が理想。私達が宇宙船地球号の乗組員であることは、どの国の人たちも同じ。私達は同じ時代を生きているチームです。そしてその中で、それぞれの個性や文化の背景をきちんと尊重できるというのが、本当の意味でのグローバリゼーションなのだと思います。

中野先生は、日本人の若者が海外に行く意味はあると思いますか?

もちろん。それも若いうちに行けたらいいですね。まず海外に行って違う文化圏に触れると、自分が対応できるキャパが広がります。私は18歳の終わりでイギリスに行きましたけど、イギリスの語学学校で世界地図を見てすごくびっくり!なぜなら、いつも見ていた世界地図と違って、日本が真ん中になかったんです。日本は右側の隅にいました。端的に言えば、そんな小さな体験でさえも、こういう見方をする人が同じ時代にいるんだ、という発見につながる。それを広げるためにも、海外に行くこと、異文化に触れることはとても意味があることです。

いろんな視点を持つと、当たり前のものが当たり前でなくなってくるんですね。

そうです、多様性に強い人になります。自分と相手を比べてどっちが上、という考え方もいらないと思っています。私は、人に会ったらいいところしか見ません。悪いところを見て相手を諭すほど暇じゃないんですよね。普通、日本の教育では、いいところと悪いところを両方並列で教えるでしょう? あの人のここはいいけど、ここは悪い。そう判断する。でも私はそういう見方はやめました。いいところだけを見るのは気分がいいです。もし悪いことがあったらその対応は他人にまかせればいい。人に会った途端、「ここが素敵」と思えるところが目につく方が楽ですし楽しいです。のちにカウンセラーになった時にこの人の見方はとても役に立ちました。「この人はここがまずいんじゃないか」と思いながら話を聞くと、この人をどうにか引き上げてあげたいという、上から目線の考え方になる。そうではなくて、子どものような無邪気な心で「ここが素敵!」と気づいたら、それを口に出して相手に伝える。、相手も自分でも気付かなかったいいところに気づいてハッピーに。そして気づくとプラス面をより伸ばすことで、足りなかったマイナス面が改善されてくるのですから不思議。

海外に行く人だけじゃなくて、日本の若者すべてにメッセージをいただけますか?

「失敗しない生き方よりも、失敗という考え方がない生き方をしてください」これは非常に効率がいい生き方です。「今日は失敗だったな」なんて反省は要りません。何をしても失敗という考え方がないなら、改善、進歩あるのみ。ピンチはチャンスの種!に変わりますよね。

最後に、中野先生の次の目標を教えてください。

世銀をやめるときにも考えた、「国創り」ですね。国創りを政治や行政に頼るのではなく、一般市民がお祭り感覚でやる、というのが目標です。私は、アメリカ滞在時代、フロリダのディズニーワールドにあるディズニー教育機関で、リーダーシープやピープルマネージメントを学んだのですが、そこには非常にうまく出来た仕組みがたくさんありました。そこで育った人がテーマパークのキャストメンバーになり、喜び楽しさが連鎖して利潤が生まれている。私はあのような喜びや愛ベースで国創りができるのでは、と思っています。楽しいことを嬉々としてやって、皆が喜びにあふれて、お互いにありがとうを言いあって。あのシステムで、国創りができるという仮説を立てているんですよ。テーマパークで遊んでいるような感覚で、日常でも周りの人のために何かをしたくなるような心の仕掛けをいっぱい作りたいですね。

具体論では、日本のコミュニティにもっと誰もが気軽に行けるホスピスを作りたいと最近思っています。楽しく人生を卒業できるような場所が各地にあれば、きっとみんなのストレスを減りますよ。この世に生まれた以上は、誰もみんな同じ方向、“人生の卒業”の方向に向かって進んでいます。昨日と今日とでは、いまの方が確実にあっちに近づいていますよね。それなのにみんな死という話題に触れないようにしているのは不自然なこと。たとえば体が動かなくなったお年寄りがいたら、若者が動いてその人の手足となる部分を補い合えるような、自然な形で最後まで関われるコミュニティが作れたらいいですね。私達がこれから一生懸命土台を用意しますので、若い人たちも是非参加してきて!と思っています。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平