VOICE

先輩メッセージ / Message19:作家 本田健氏

著書の中で「直観力」という言葉を拝見したのですが。健さんの言う直観力とは何なのですか?

「直観力」はトップクラスの方はみんな使っていますね。自分で上場企業を作りあげているような方たちは、みんな直感だけで動いています。でもそれを有価証券報告書に書くわけにはいかないので、それっぽいことを書いているだけだと思います。

たとえば、この人とつきあったらいいかどうかとか、これをやったらいいかどうか、とか。一時的には損するようなことでも、最終的にはそれがすごく利益になったりすることがありますよね。たとえば御社のHPも無料で公開しているとのことで、経済的には損するかもしれないけれど、それによってたぶん人脈運はあがっていると思います。損して得をとれという言葉がありますが、僕はまさしくそう思います。そしてその判断は、直感でするしかないでしょう。頭で損得を考えると、ほとんど外してしまいます。なぜなら目の前のことしか見えていませんからね。

個人的には、僕は直感というナビゲーションシステムは、すべての人にインストールされていると思います。もともと小さい頃からあるものだけど、ほとんどの人たちが小学生くらいでオフにしてしまう。そして自分が何をやりたいか、何をすればワクワクするのかというのを感じられないまま生活をしているんです。じゃあ、どうすればナビゲーションシステムをオンにできるか。それは、好きなことをやることです。好きなことをやってワクワクすると、次はこうやりたい、ああやりたいというのが出てくる。僕らの持っているナビゲーションシステムは、ワクワクしないと十分に電気が保てない。そしてスクリーンは暗いままなんです。

小さい頃から「お前にはできない」という言葉をぶつけられて、自分の可能性を信じられない若者も多いと思います。そういう若者は、どうやって変わっていけばいいですか?

それは自分育てしかないと思います。自分のことを褒めてあげたり、自分のことを抱きしめてあげたり。お前はすごい、と自分自身で言ってあげるしかない。そのために一番手っとり早いのが、好きなことをやるということです。好きなことをやりながら、自分のことを嫌いになるのは難しいじゃないですか。好きなことをやって、ワクワクしながら、不幸なことを考えるのは難しいんですよ。誰だって、楽しくて大笑いしているときには、不幸にはなれないです。感情は同時に何個も持てませんから。そういう意味で、好きなことをやるのは万能薬。好きなことをやると、こういうプロジェクトがやりたい、こういう人に会ってみたい、こういうところに行ってみたい、と夢が広がっていくんです。その夢がお金で解決できる時は、お金を使えばいい。誰かに助けてもらえるときは、助けてもらえばいい。そうやって進んで行けばどんどん面白くなっていきます。でもほとんどの人はやらないんです。

たとえば僕は今回研修センターを作りました。同じように、センターを作りたい、学校を作りたいという人はたくさんいます。でも実際やる人がどれくらいいるかと思えば、ほとんどいない。なぜなら、それをやるのにはお金がかかるからです。確かにお金はかかりますが、それは稼げばいいだけの話です。たとえばセンターを作るのに、2億円かかるとしましょう。その2億円を現金で残そうと思ったら、4億、5億は稼がなくてはいけません。そしてその5億を5年で稼ごうと思ったら、1年間に1億稼がなくてはいけない。そうすると一月に約1000万。1日では30~40万。それをコンスタントに稼いで、税金を払えば2億円残ります。そうやって、つきつめて行けば、1日30万、40万をどうやって稼ぐかを考えればいいわけなんです。たとえば絵がうまい人なら、3万円の似顔絵を10枚売ってもいい。それは何でもいいんです。その人が一番得意で、楽しくて、ワクワクすることをやって、その見返りとしてお客さんが喜んでお金を払ってくれるようなことをやればいいんです。

嫌いな仕事だけどお金になりそうなことって言ったって、絶対長続きしません。好きなことで、ワクワクできることで、人が喜んでくれること。なおかつ喜んでお金を払ってもらえることをやる。長期的な目で見れば、それはその人が提供できる最高のものになると思います。そしてそれが最終的には経済的な成功につながるし、本人もやってよかったと思うはずです。

健さんのスクールの門を叩いてくる若者はまだいいと思いますが、現在では「草食系」と言われるように情熱を持つのが苦手な子もいますよね。そういう若者に対してはどう思いますか?

彼らは、楽しい人生を知らないだけなんです。だから楽しいということがどういうことなのか、大人がしっかり見せてやらなくちゃいけないと思います。大人が、仕事は楽しくて、人に感謝されて、ワクワクできることなんだって、見せてあげる必要があります。先日、うちの娘が、講演会に一緒に来て「パパは本当に素晴らしいことをやっているね」と言ってきたんです。何でそう思ったかと言えば、たくさんの人がワクワクして、交通費やいろんなお金をかけてきてくれて、みんな感謝してくれて、ニコニコしながら帰っていくのを見ているからだと思います。

だからきっと若者も、「大人って楽しいんだよ」というのを見たら、変わってくれると思うんです。なぜ彼らが草食系になるかと言えば、それはマイルドに人生に対して絶望しているからなんです。彼らはマイルドに絶望しているからこそ、情熱や勇気が出てこない。「どうせたいしたことない」って、軽いうつ状態に陥っているんです。

大人がそういうワクワク感を見せていないんですね。

はい。今の日本で、「楽しく生きていい」と許可を出している人がどれだけいるでしょうか。つい先日僕が翻訳したアラン・コーエンの本の中の一説なのですが、ある有名なコメディアンは、中学生のときに「君はいつも冗談ばかり言っているけれど、人生って笑ってばっかりじゃいられないのよ」と言われていたそうです。ところが彼は、笑いながら生きて行って、人を笑わせて、そして大金持ちになっているんです。本当は人間は笑いながら生きて行くこともできるでしょう。大人が「できない」と決めつけて、それを子供に押し付けているだけなんです。

「やりたいこと」「好きなこと」が見つからないと言う若者も多いですが、彼らに対してはどう思っていますか?

まず本気で見つけたいと思っていないんでしょう。それはパートナー探しとも同じことが言えます。好きな人が見つからないという場合には、たいていいくつかの要因がありますが、一番大きいのは「どうしても恋人が欲しい」という気持ちになっていないんです。口では欲しい、欲しいと言いながら、毎日、職場と家だけの往復。そして具体的な行動もない。それで恋人が見つかるはずがないじゃないですか。自分の好みの人が行きそうなところに、自分も足を運ばなければ、出会いなんてないんです。

そしてたいていの場合、彼らは自分が出会えるという信頼がありません。どうせ自分には無理だと思って、頭で止めてしまっているんです。自分はパートナーシップが手に入らない、出会いがない、お金が手に入らない、ライフワークが見つからない……。自分でそう思っているから、見つからないんです。今はまだ見つからないけど、これから絶対見つける!と思って行動していたら、だいたい見つかるものなんです。だから「やりたいことが見つかりません」という人には、僕は「そこまで本気じゃないんでしょ?」と言うようにしています。

では今、健さん自身が一番ワクワクしていることを教えてください。

個人的には「好きなことをやって、経済的にも恵まれている」という人たちを、たくさん増やしていきたいと思っています。そしてそのためには、自分の才能がなにか、どういうときにワクワクするのか、というのをうまく引き出してくれる人が必要です。それでこの11月から、ライフワークを見つける手伝いをするカウンセラーの養成講座をやろうとしています。

そうは言っても、やっぱり大人はちょっと遅いと思います。30過ぎたらすっかり手遅れだし、20代でもマイルドに絶望している。一番いいのは、5歳か6歳。そこから好きなことをやるという習慣を身に付ければ、そういうメンタリティになってくれます。そういう意味では、うちの娘は非常にクリエイティブなメンタリティに育ったと思いますね。12歳で「私は、何時から何時までという働き方はしない。好きな時に働いて、人に喜ばれて、お金が儲かる仕事をする」と言っています。やるかやらないかはともかくとして、少なくとも仕事の本質が、自分が楽しいことで、かつ人が喜ぶことだと押さえています。結局、子供は6歳くらいから好きなことを追いかけて、18歳くらいで帳尻を合わせればいいと思っています。そしてそういう安全な環境を作りたいです。それが東京に作ったサドベリースクールです。最近は全国でそういう動きが広がっているので、応援したいと思っています。

最後に、海外留学を目指す若者にアドバイスをお願いします。

やはり何で海外に行くのか、ということを明確にしておかないと、ただ「海外に行った」だけになってしまうと思います。たとえばアメリカでMBAを取った人を揶揄する言葉で、master of being in Americaという言葉があるんです。要するに、アメリカにいることのマスターだということ。マクドナルドの買い方とか、コーヒーの買い方とか、そういうのはやたらと詳しくなるけれど、アメリカのことを本当に分かっているかと言うとそうじゃない。

他の文化に溶け込んで、その文化を知って、そして自分はどんな文化で何をしたいのか。どうせ海外に行くのなら、そこをきちんと理解するべきでしょう。そしてそこが理解できれば、もっと日本のことを大事に思えるだろうし、ひょっとしたら日本に帰って来たくなるかもしれない。そういう意味で、海外で一度自分の枠を取り外すというのは、とてもいいことだと思います。

それから海外でいろんな生き方を見て、自分がどんな生き方を選びたいのかをよく考えることも大切だと思います。一度海外に行ってみれば、海外で生きるという選択肢もでてきます。僕自身、今は日本にいたい気分ですが、来年はヨーロッパかもしれないし、中国かもしれない。みなさんも自分が一番ワクワクする国で暮らすのがいいと思います。僕は、みなさんに選択肢の多い人生を歩んでほしい。そして日本でずっと暮らしている人に比べれば、海外経験者は選択の自由度もぐっと大きいはずです。ぜひ自分の選択肢の枠を広げたうえで、お金がたくさんある人生がいいのか、お金がなくても友人がいる人生がいいのか。自分の望む人生を自由に、楽しみながら選んでほしいと思います。

たとえば今、上場企業のオーナーだけが集まっているクラブがあるとします。そしてその隣には年収3000万くらいの人が遊ぶクラブがあります。普通の人から見ればどっちも金持ちだけれど、同じ金持ちでも彼らは全然生き方が違います。そしてもうひとつ、サラリーマン、OLたちが集うクラブがある。そのどこに属したいかで、法則も違うし、ノリも違うし、楽しみ方も違います。どれがいいか悪いかじゃありません。自分がどこに属したいかが問題で、それは自分で決めることができます。もちろん最終的に、生き方は1個しか選べません。でもそれはつまらないことじゃなくて、楽しいことだと思います。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平

※今回は、本田健さんの著書を愛読している石井良恵さんが取材に同行。特別インタビューは次項です!

番外編はこちら