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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>国際緊急援助隊(JDR) 大友 仁氏

先輩メッセージ / Message15:国際緊急援助隊(JDR), 大友 仁氏

自分が直接被災しなくとも、そういうことで心的ストレスは蓄積されていくのではありませんか?

そうですね。私も心的ストレスの検査では、「兆候が見られます」というところに○が付いていますね。これが5、6年前なら何もつかなかったでしょうけど。やはり同じような経験を積んでいくと、人間の心はもろくなっていきますよね。最近はちょっと辛い時もあります。

それは被災地の二次災害や治安への恐怖というよりも、自分の無力さとの直面といったストレスなのですか?

ええ。現場でテント生活だから辛いとか、そういった辛さはまったくないんですよ。無力感を感じるのが一番辛いです。もちろんハイチでも震度6くらいの余震はあったし、それが怖くないかと言えば嘘になります。でもそれをどうにかマネージメントしようとして、揺れが少ない建物を選んでいるし、二次災害が少なくなるような努力もしている。それはある程度自分で制御できるので、そこまで恐怖を抱くことはありません。

「何でそんな危険なところに行くんですか?好きなんですか?」と言われることもあるのですが、決して「好きです」というような仕事ではないんですよ。正直言えば、現場の高揚感や緊張感は、不謹慎なようですが、嫌いではありません。嫌いではないけれど、好んで味わうようなものではない。ただ、どこかの誰かが被災地に行ったときに危険度が60%で、私が行けば50%だとする。たった10%ですが、私がサバイブする確率のほうが高いのであれば、そこは経験がある私が行くべきなんじゃないかなと思うんです。もちろん危険度を0にすることはできないけれど、人よりも10%危険度を下げる自信と経験はありますから。

直接被災者に医療を行ったり、救助を行ったりする専門の方に同行しているときに、自分も直接的に支援にあたる側になりたいと思ったことはありませんか?

中には業務調整員の経験をしてから、医療職や救助職を目指す人もいるんですよ。でも私の場合は、自分が考えたことがうまく回っていく快感というものを知っていますので、今の仕事がベストですね。直接的に支援するわけではないけれど、自分がプランニングして描いた絵が思った以上にうまくいったりすると、やはり嬉しい。私にとって仕事としての充実感や面白みみたいなものは、そこにあるんですよね。

海外で日本人ボランティアはどういった役割を期待されていますか?

直接的には弱っている人を助けてほしいということ。でもそれよりももっと大切なことがあって、それは心の支えになってほしいということですね。たとえば中国で地震があったときに、日本の救助チームが死者に対して黙とうをささげたのが、すごく大きく報道されましたよね。中国人の日本に対する考え方が、あの一件でとても良くなったといいます。それから日本人は死者に対しても丁寧に扱ってくれると言うので、外交にまで良い効果をもたらしたということも言われています。

結局、被災者は体だけじゃなくて心も傷んでいる。そんなときに隣にいるお母さんだけでなく、日本から来た救援隊の人たちも隣に座って、大丈夫だと言ってくれる。親切な対応をしてくれる。たったそれだけでも、被災者は自分たちが見放されていないという感覚が得られるんです。もちろん直接的な支援は必要だけど、本当は横で「大丈夫?」って言ってくれる誰かがいるということのほうが大きいんですよ。直接横に座れなくても、手紙を送る、ノートを送るとかそうしたことも心の支えになるんじゃないかと思います。

いろんな国から援助隊が派遣されてくる中で、日本人だからこそ期待されるものはありますか?

そうですね。たとえば医療であれば、やはり日本人は患者に対する扱いが丁寧なんですよね。途上国のドクターはみんな地位が高いので、日本では当たり前になっているインフォームドコンセントもしません。ポンと薬を打って患者が「何の薬ですか?」と言っても、「効く薬に決まっているでしょう」と答えるだけ。でも日本人のドクターは「今あなたの症状はこうだから、ここに効く薬を打ったんですよ」と親切に教えてくれる。患者さんに聞くと、「こんなに丁寧に説明してくれたドクター初めて」と言うくらいなんですよ。技術的な高さはもちろんですけど、日本人の丁寧さが患者さんにとっては嬉しいみたいですね。

よく日本人はもっと海外に出るべき、ということが言われていますが。大友さんから見て、日本人が海外に出ることの意味はどこにあると思いますか?

行ったほうがいいか、悪いかの話をすれば、それは行った方がいいけれど、でもそれだけが道ではないですよね。偏りすぎるのはよくないと思う。ただ、自分が海外に出るようになって良かったなと思ったのは、自分たちは意外と日本のことを知らないということに気づけたこと。海外に出て、いろんな国の人に「日本はどうなの?」と言われたときに、きちんと説明できるかと言ったら、なかなか簡単にはできないんです。それで説明するために、自分で日本のことを勉強する。そうやって日本のことを良く知ることができるというのは、海外に出ることのひとつのメリットなのではないでしょうか。

では、大友さんのように海外での支援活動にかかわる仕事を志したいという若者にメッセージをいただけますか?

よく「大きな目標を持て」と言われることがあると思います。大きな目標を持つことは、決して悪いことではありません。でも、私は大きなことを目指すことだけではなく、目の前にあることをひとつひとつクリアしていくということも大切だと思う。私が今なぜこの仕事に入りこんでいるかと言えば、それは目の前にあることをひとつひとつやっていった結果。結局目の前にある目標をクリアしていったことが、自分の身になったんですよね。大きな目標をたてると、クリアするまでのプロセスも大変。でもひとつひとつの小さな目標であれば、ちょっと興味を持てば必ずクリアできますから。私はキャパシティが狭い人間ですので、小さなことからしかできませんでした。でも小さなことが積み重なっていくうちに、それがエキスパート性となって身に付いていったと思っています。

海外で働くと、文化も言葉も違うし、いろんなことでつまづいて帰りたくなることもあります。それでもひとつひとつの小さな目標に興味を持つことができれば、またちょっとやる気も出るはずです。それも物事のひとつの進め方だと私は思います。

では最後に。大友さんのこれからの目標は?

やはり「災害あるところに大友あり」と言われるようにはなりたいですね。それから、もっと水の供給について勉強をしたいとも思っています。被災地でより早く、より綺麗な水を供給できるようなノウハウを身につけて、被災地で役立てて行きたいですね。たぶん既存の機械でも難しいことではないと思うんです。ただ私は、それがいかに早くできるかということにも重点を置いていきたい。まだまだ災害に必要されているものはたくさんあります。これからは、そういうところにももっと踏み込んでいきたいですね。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平