この教授が、本当にパワフルな方で。僕は大学受験のときに名城大学も受けていたのですが、その試験監督をしていた先生が黒田教授と友達同士だったんですよ。それで「あの子、名城大学受けていたけれど、うちの大学に入ってこないな」と黒田教授に話したところ、「ああ、外大に来ているよ」と。「それじゃあ、ぜひ授業で話をしてほしい」と先方が黒田教授に持ちかけてきたんです。
それで教授が「やってみろ」と。もう、僕は「ははぁ~」と言うしかないですよね(笑)。最初は、受けたものの不安ばっかりでしたよ。まず同じ年代の生徒の前で話をするということ自体が恥ずかしい。それから、自分の障害について人に話したことはほとんどなかったので、話したことで引かれないかとか、話す意味はあるのかとか、いろいろと考えてしまって。本当に直前まで葛藤がありました。……でも、ここまで来たら断りきれんなと。やらなイカンなと。それでふっ切って話をしてみたら、大歓声が沸き起こったんです。
講演の後には感想文をもらって、読んだらすごく嬉しいことが書いてあって……。気持ちも晴れやかになりました。それまで僕は、両手がないということは、自分が背負うべき重たい荷物だと思っていたんです。でも人に話してみたら、その重たい荷物は、結構役に立つもの……すなわち、自分を生かしてくれるものだったんですよね。
確かに、背中を押されてばかりですね。たぶんその頃の自分は、できるかなぁ、できないかなぁ、とウジウジしてばかりだったんですよ。自分に「できること」を見ればいいのに、小さい頃から諦めてきたことがたくさんあったせいで、一歩前に進むことができなくて。そこで「やれよ」と誰かに言われて初めて、「他人がやれって言うくらいなんだから、自分にもできるのかな?」って思って、行動することができたんですよね。講演も、ホノルルも、きっと人が背中を押してくれたからこそ、できたことですよ。
ホノルルマラソンは、ちょうど講演の後に参加したんです。講演をしたことで自分の中で変化があって、もっともっと変わりたい、と思うようになっていて。そのタイミングでマラソンに誘われたので、これはいい機会だと。
それまではすごくのろのろ運転で、ブレーキばっかり。障害があるとこれはいけるかな、どうかなって考えて、後ずさりしちゃったり。でもマラソンを走り切ったことで、遅かった自分の動きに加速がついたんですよね。壁があっても、なんとか乗り越えられるだろう。自分自身で解決できなくても、誰かに相談すればできるだろうって。頭の中がクリアになって、変な迷いがなくなったんです。なんとかできるだろう、やる前から諦めるのはアカンだろう。そう思えるようになりました。
それはもっと英語を勉強したいと言う気持ちからですね。それから、僕に目をかけてくれていた教授が「今度、ニュージーランドの短期留学がある。先生も行くから、一緒に楽しもうな」って言ってくれたんです。それで、先生が一緒に行くなら心強いし、「ヨシ、行ってみよう」と。
確かに言葉が不便な上に、自分には身体的な不便もあるのに、やっていけるかなという思いはありました。でも大学がサポートしてくれるし、ホームステイ先も僕のことを知った上で受け入れてくれたので、そこまで不安にはなりませんでしたね。それに実際行ってみたら、ひとつも大変ではなかったです。自由な気持ちになれたし、英語を使って生活するという新鮮味もあったし、いろんな生活や習慣の違いを勉強できたし。それまではいろんな悩みや不安もありましたが、留学したことで視野も広がって。むしろ不安が軽減されて、気持ちがすごく楽になりましたね。
4歳で両手を失った小島先生が、家族や先生、友達に支えられながら、夢をつかむまでの軌跡を描いたエッセイ。時には差別を受けたり、コンプレックスに苛まれたり。挫折や苦しみを経験しながらも、自分の殻を突き破って前に進もうとする小島先生の姿が、爽やかな感動と共感を与えてくれます。どんな人でも、夢をあきらめる理由なんてない。そんな力強いメッセージをくれる一冊です。