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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社マザーハウス 山口絵理子代表

先輩メッセージ / Message04:株式会社マザーハウス 山口絵理子社長

現在、年間3000人程の海外留学者がいるのですが、その中には海外支援に興味を持って留学を決意したという人も少なからずいると思います。そういった若者に、アドバイスをお願いできますか?

思ったこと、感じたことを受け入れることが一番大事だと思います。その国についての本は、実は読まない方がいいかもしれないですね。私たちの情報は、ものすごい先入観によって作られていて、それを覆されるような出来事は、なかなか受け入れられなかったりするんです。私自身、大学4年のときに勉強してきた途上国の情報は、現実とはまったく異なるものでした。でも、そのとき素直に受け入れることができたからこそ、今のビジネスをスタートさせることができたんだと思う。いくら現場を見たって「途上国」のイメージに凝り固まってたら、今頃こんなバッグなんて売っていなかったですよ(笑)。自分の枠は自分で決めてしまいがちだからこそ、物事を素直に受け入れることが大切ですね。

現在、山口さんは「社会起業家」というキーワードでくくられることが多いと思います。その代表選手のような扱いをされることに対しては、どう思っていますか?

社内的には「社会起業家」という言葉を使ったことはないんですよ。気づいたらそういう風に言われていますけど、自分的には「?」という感じですね。マザーハウスは、やっぱりペンチャーで、泥臭い会社。「社会起業家」ってどういう人を指して言うのか、教えてもらいたいくらいです。

「社会のため」ということについて考えるときに、私が強く思うのは、人を雇用することの意味。自分の工場を作ってみて、人がひとり、またひとりって増えいてくのを見ていると、雇用すること以外に社会的に意味があることなんてないかもしれない、と思ってしまうんですよ。結局、雇用以外のことで、社会的に意味があると思うようなことは、そのひとの主観なんですよね。私たちがやっていることが、100%正しいなんて絶対に言えないんです。少なくとも、今存在している企業は、人を雇用して税金を払っている。それだけで、本当にすごいこと。実際に、バングラデシュでトヨタの車がたくさん走っているのを見ると、「バングラデシュに快適な暮らしを提供している。何てすごい会社だろう」って感心しますよ。どんな会社でも社会的に意味のある会社だし、意味のない企業なんてもうとっくに倒産しているはずです。

それに、日本で「社会起業家」と言われている人たちが、どれだけ利益を出しているかと言われれば、それはすごく疑問ですよね。会社がもし倒産したら、何人困るか―。会社の社会的な意味を測るには、それが一番重要なポイントだと思う。トヨタの工場がつぶれたら困るのは何万人という規模でしょう? それを考えれば、まだまだ私たちの工場はスタート地点に立ったばかり。ここから、どれだけの人たちに満足を提供できるかというところです。

では、今後の夢はありますか?

口をすっぱくてして言っていることなんですが、もっともっとグローバルな展開をしていきたいですね。起業当初から、そもそもバングラデシュのバッグ屋さんをやるつもりはなかったんです。「途上国の可能性を先進国に伝えたい」。そういう思いから始めたビジネスなんですよね。でも、そう言っているにもかかわらず、バングラデシュでしかバッグを作っていないし、ましてや日本でしか売っていない。この現状に対しては、すごく悔しいんですよ。

今現在、アメリカとヨーロッパでの販売に向けて少しづつ動き始めていて、年内には絶対にスタートラインに立ちたいと思っているところ。もちろん、生産地もどんどん拡大していきたい。バングラデシュやネパールで展開したビジネスを、アジア全体に広げて行きたいですね。やっぱり技術や知識は蓄積されるものですし、品質への取り組みも蓄積されていくもの。そこを意識しながら、販売と生産ラインの両方を拡大していくことが、今後の目標です。

20代の女性として、悩むことはないんでしょうか?

今は仕事が楽しいからな(笑)。年間の6~7割は向こうにいる生活なんですが、日本に帰ってくると、こんなにいい生活しちゃっていいんだろうかって、思うくらいだし。ベンチャーできつい、きついって言ってはいるけど、こんなにやりがいのある仕事をやらせてもらっているという感謝の気持ちでいっぱいだし。

やっぱり、やりたいことをやったほうが気持ちがいいんですよ。女性で「起業したい!」という人って結構多いみたいで、よく質問メールをもらったりもするんですが、本当に若い子とか我慢しすぎです。たぶん、自分の中の常識など、気付かないうちに制約をしているんでしょうね。もっとやればいいのに。失敗したところで、バングラデシュのストリートチルドレンより悪い生活になるかと言えば、そんなことはないじゃないですか。ファーストフードでバイトして、生きていけるわけじゃないですか。何なのよ、って思います。失敗することが、一体何なのよ(笑)。

好きなことは、やったほうがいいという前向きなメッセージですね(笑)。山口さん自身は、やりたいことをやっていますか?

はい、もちろん。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平

著書「裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記」のご紹介

「発展途上国の現場を見たい」との思いから、単身バングラデシュに渡った山口さんが見たものは、腐敗と裏切りに満ちたアジア最貧国の現実だった—。波乱万丈の青春時代を経て、「発展途上国発のブランド」マザーハウスの設立から軌道にのせるまでの道程をつづった自伝的エッセイ。何度裏切られても、ボロボロになっても、自分の夢に向かって突き進もうとする山口さんの姿は、きっと読者に勇気を与えてくれるはずです。